どーも、ふわりです。
いや~、凄いことになりましたね。
フランス代表がニュージーランド代表を倒したという開幕戦が、霞んで見えなくなってしまうような、記憶の彼方に飛んでいってしまうような、そんな試合でした。
イングランド、絶不調とはいえ、やっぱり試合巧者ですね。試合の流れを要約すれば、こんな感じです。
前半2分、イングランド代表の7番トム・カリー選手とアルゼンチン代表の15番フアンクルス・マリア選手が頭部同士で接触、マリア選手の前頭部から大量に出血するシーンが映し出されます。その結果、カリー選手は危険なタックル(というよりクラッシュなんですが)によりイエローカードを出され、シンビンでとりあえず一時退場。同時に、今大会から採用された『バンカーシステム』によって、レッドカードに相当するかどうかを専任の審判員が別途8分以内に映像で検証、判定を出すという動きに入ります。アルゼンチン代表の14番エミリアーノ・ボッフェーリ選手がPG(ペナルティーゴール)を決めて3点を先行し、これは雲行きが怪しくなってきたなと思われましたが、前半8分、今度はアルゼンチン代表の10番サンティアゴ・カレラス選手が、レイトチャージによりカリー選手と同様に暫定的な一時退場、こちらもバンカーシステムでの判定待ちとなり、14人対14人のイーブンな状況に。さらに、イングランド代表の10番ジョージ・フォード選手がPGを決め、点数も3対3のイーブンに持ち込みます。
同点に追いついたイングランドでしたが、前半10分、カリー選手の判定がレッドカードに確定、アルゼンチン代表カレラス選手の判定が待たれる状況になります。前半19分、カレラス選手はイエローカードに確定、試合に復帰、イングランドは以後試合終了まで、14人対15人という数的不利な状況での戦いを課せられることになります。この試合、イングランドに勝ち目はないと思われました。
15人対14人の数的優位に立ったアルゼンチンは、前半21分、12番サンティアゴ・チョコバレス選手のキックが『50:22』となり、イングランド陣深くに攻め入りますが、一旦ここでウォーターブレイク。両陣営のスタッフがコートに入り、選手は給水のため小休止を取ります。
ウォーターブレイクが終わり、イングランド陣5メートルラインの手前、ゴールラインまで6~7メートルの地点から、アルゼンチンがラインアウトにボールを投入、試合が再開されます。ところが、ゴールラインを目の前にしながら攻めあぐね、結局トライ成らず。
前半26分、イングランドがアイルランド陣に攻め込んだ際、それは起こりました。イングランド代表のフォード選手がハーフウェイラインと10メートルラインの間から、なんとドロップキック。これが見事にゴール成功となります。これはまさに、観ている者にとって、おそらくアルゼンチン代表の選手たちにとっても、まさに『鳩が豆鉄砲を食らった』ような瞬間でした。
フォード選手は、その後も前半30分、前半36分と立て続けに豆鉄砲、ではなくドロップゴールを成功させ、前半を12対3で終えます。
これがこの試合のすべてです。後半のアルゼンチンは完全に浮足立ち、自分たちのラグビーをなにもさせてもらえず、後半79分、ようやくトライを取るものの時すでに遅し。試合は27対10、イングランドの勝利でノーサイドを迎えました。フォード選手は、ドロップゴール3本で9点、ペナルティーゴール6本で18点、1人で27点すべてをイングランドにもたらしました。ひょっとすると、レッドカードで出場停止中のオーウェン・ファレル選手が戻ってきても、出番は減るかもしれません。そのくらい、フォード選手のキックは正確無比でした。
いやはや、ある意味、凄い試合になりました。
「なにがそんなに凄いの? ドロップキックってなに?」という方に向けてお話ししますが、ドロップキックというのは、キックオフなどで使われる蹴り方で、ボールを地面に落とし、バウンドしたところを蹴るんですね。見た目は簡単そうに見えるかもしれませんが、やってみれば非常に難しい技術だと分かります。慣れるまでは大部分の人が、スカッと豪快な空振りを繰り返すでしょう。試合中に、そのキックでゴールを狙うわけですから、これは大変難しい。大事な試合でスカッと空振りしたら、「自分、なにしとんねん!」とワンチームだったはずの仲間たちから冷たい視線を、場合によってはダブルタックルを、いやトリプルタックルを頂戴することになってもおかしくはありません。
話を戻しますと、ワールドカップの予選は勝ち点システムですから、トライを4つ取ってボーナスポイント1を加点、さらに8点以上の差をつけることで相手にはボーナスポイントを与えない、というのがベストな結果ですよね。ですから、特殊なケースを除けば、ドロップゴールというものは、同点もしくは1~3点ビハインドで迎えた後半終了間際、トライが難しいと判断した上で、逆転または同点を狙うためのイチかバチかの最終手段、というのが一般的でしょう。イングランドにとって、その特殊なケースというのが、レッドカードによる数的不利だったんでしょうね。なにしろ、前半で3本ですからね。3本すべて成功させたフォード選手は賞賛に値しますよね。凄かったし、観ていてかなり面白かったです。
また、イングランドの他の選手たちは、フォード選手のドロップゴール狙いに対して、とても落ち着いてプレーしているように見ました。もしかすると、レッドカードで数的不利な状況になった際の対策として事前に準備、関係者や選手間で共有していたのかもしれません。テレビ放送では気がつかなかったのですが、J sportsで見直してみると、上述のウォーターブレイクの際中、イングランドのスタッフがフォード選手の背後に立ち、なにやら話しかけています。これが「ドロップゴールを狙え」という伝令だったのかもしれませんね。少なくとも「夕食はみんなでフレンチ食い放題、シャンパン飲み放題にしようぜ!」と言う相手に対し、「おっ、いいね。フィッシュ・アンド・チップスはもうたくさんだよ」などと答えながら、両手のひらを上に向け、肩をすくめる、そんな会話ではなかったはずです。実際、両手のひらを上に向ける仕草も、肩をすくめる仕草も、映像では確認されておりません。
さておき、前半に3本のドロップゴールを決めたフォード選手でしたが、後半は打って変わってドロップゴールを狙わなくなります。チームの方針として、より確実なペナルティーゴール狙いに切り替えたのでしょう。もちろん「あわよくばトライも」という考えはあったのでしょうが。
アルゼンチンからすれば、攻撃面ではイングランドのディフェンスを破れない焦りがあり、その上、いつまたドロップゴールを狙われるかを気にしながらのディフェンスになり、集中力が分散されてしまったのでしょう。ミスや反則が散見されました。このあたりのイングランドの試合巧者ぶりが、そして落ち着きすぎな雰囲気が、とてつもなく怖かったです。
けどまあ、我らが日本代表にとってはよかったですよね。イングランドのこの奇襲攻撃を前もって、傍から『見る』ことができたんですから。
我らが日本代表は、9月18日にイングランド代表と戦うことになります。その時点ではまだ、イングランド代表オーウェン・ファレル選手の出場停止は解けていません。フォード選手が出る可能性もありますが、意表をついてマーカス・スミス選手という気もします。ただ、たとえスミス選手が先発しても、ふたたびイングランド代表にレッドカードが出され、数的不利になれば、フォード選手のお出ましとなり、ドロップゴールを狙われるでしょうね。
そうなったとき、我らがブレイブ・ブロッサムズはどう戦うんでしょう?
普通に考えれば、なるべくイングランド陣で戦う、しかも無理にトライを狙わず、じっくりボールを回しながら、イングランドのディフェンスに穴を作っていく、ということになるでしょうか。実際、アルゼンチン代表の最後のトライは、ゴール前での連続攻撃によるものでした。終了間際でイングランドの選手が疲弊していた、さらに1人少なかった、ということもありますが、それ以外の攻め方をして、不用意にイングランドにボールを渡すのは危険かもしれません。あとは、いっそのこと、自陣に攻め込まれた際には「ドロップゴールで得点されるんなら、それはそれで仕方ないわ」と開き直り、「蹴ってみ、フォード君、さあさあ、得意の豆鉄砲、打ってみ」と口に出しながらフォード選手を温かく見守りつつ、通常のディフェンスをきっちりとするしかないのかもしれません。
う~ん、どんな戦いを見せてくれるのか、ますます楽しみですね。
しかし、ハイタックルを始め、タックルやコンタクトが厳格化、厳罰化されるとなると、今回のイングランドの戦術は定番のひとつになるかもしれません。そうなると、たとえばワールドカップの予選では、RWC2015での日本代表のように、3勝しながら決勝に進めないというチームが増える可能性はありますが。
さておき、ドロップゴール3連発というレアな試合を観ることができて幸運でした。RWC1999の準々決勝でドロップゴールを5回成功させた南アフリカ代表のジャニー・デ・ビア選手や、RWC2003の優勝をドロップゴールで決めたイングランド代表のジョニー・ウィルキンソン選手が、もはや伝説となっていますが、今回のフォード選手も、今後何十年と語り継がれるのでしょうね。
最後になりますが、プロの選手もヘッドキャップを義務化した方がいいのでは、と思いませんか? ヘッドキャップをすると味方の声が聞き取りにくいというのは分かるんですが、需要が増えて利益が見込めれば、メーカーも改良費用を出せると思うんですよね。なんだったら、比較的安全な頭頂部は覆わず、分厚いヘッドバンドのようなものでも、安全性はかなり確保されるのでは? もちろん、ヘッドスキンの選手がそれを装着した場合の見た目問題は出てきますが、少なくとも今回のマリア選手のように『顔面血だらけ』という事態は避けられるでしょう。「あたしゃね、血だらけの選手を見るのが好きなんじゃよ、むふふ」とか「あたくし、殿方の血を見ると興奮するんですの、おほほ」という皆さまのことも、その嗜好も、一切否定するつもりはございませんが、そういった特殊な嗜好をお持ちの方々には、ラグビーではなく、スプラッター映画で我慢してもらうしかないと思うんです。
おっ、そろそろ我らが日本代表戦の放送が始まります! 来た、来た、やっと来た!
それでは、また次回お会いしましょう! ありがとうございました!
ふわりふらり
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