ラグビー観戦記 RWC2023 日本 VS サモア

ラグビー

 はぁ~~~、よかったぁ~~~。

 2度はらはらし、2度ほっとした試合でしたね。

 堀江選手がシンビンに入り、バンカーシステムの判定が出るまでの数分間、そして終了間際のおよそ2分、この時間帯は気が気ではありませんでした。

 ほっとした今、この試合を振り返ってみると、次のアルゼンチン戦に向けての収穫もあり、課題も残った試合になったようですね。

日本代表ブレイブ・ブロッサムズ

好調にかげりなし、層も厚い

 流大選手が欠場の可能性ありとのニュースを見たときには、「きっと大丈夫だろう」という根拠のない希望的観測をしつつも心配はしておりましたが、当のご本人がサポートメンバーとして元気な姿を見せてくれましたし、急遽出場となった齋藤直人選手も見事代役を務めあげた上で、自身の武器であるテンポの良い素早い球出しを見せてくれました。

 松田選手のショットも好調で、連続成功は13で止まりましたが、その後2本のPGをきれいに決め、この試合の総ショット数6本中5本を成功させております。連続記録などというものは要らぬプレッシャーになるだけでしょうから、この辺りで失敗しておいてむしろ良かったのかもしれません。とにかく、初戦のチリ戦での1本目から、失敗したキックも含め、この試合までの16本のキックはどれもボールの軌道が真っすぐで美しいので、左右どちらのサイドから蹴っても成功率が高いのでしょう。次回以降も安心して観ていられますね。インフィールドに落とすキックが狙ったであろうポイントを若干越えてしまうシーンが初戦からいくつか見られましたが、それもキックの調子が良すぎて自身が思った以上に飛んでしまうのかもしれませんね。きっとアルゼンチン戦には修正して臨むでしょう。

 さらに後半35分に斎藤選手と交代した福田健太選手、同36分に10番スタンドオフの松田力也選手と交代した李承信選手が、いずれも数分という短い時間ながらもワールドカップという大舞台に立ったことで心のウォーミングアップもできたでしょうし、観ている側としても、日本代表のハーフ陣の層の厚さを確認できました。

 レメキ選手も元気で生き生きとしており、ラン、キック処理、ディフェンスと、フルバックとして大活躍でした。イングランド戦とチリ戦では、バックスの繋がりを意識したのか「レメキ~、まだ全然いけるでしょう~」と言いたくなるところでもパスをしていましたが、この試合では逆に「そこはナイカブラ選手にいったん回してもいいんじゃないのぉ~」と言いたくなるところでも自分で突進、本来のフィジカルの強さに、観ている側まで勇気づけられるほどの『前に進む意志』が相まって、サモアのフィジカルの強さを吹き飛ばしていましたね。このおかげでゲインラインを大きく越えることができ、ラブスカフニ選手によるジャパンのファーストトライに繋がりました。「果敢なタックルが仲間を鼓舞する」とよく言われますが、タックルだけではなく、強い意志に基づいた勇気あるプレーであれば、仲間を鼓舞できるのだと思います。

 レメキ選手だけではありません。松島幸太朗選手やナイカブラ選手も、要所要所のランでサモア陣に攻め込み、パスで繋ぎ、タックルでピンチを救い、本当にいいプレーを見せてくれましたし、同じように中村選手やライリー選手も……、とてもとても書ききれません。RWC2019と今回の日本代表を同じものとして見るのは選手たちに失礼なのかもしれませんが、この好調の状態で、前回大会のようなバックスの見事なつながりが出てきたら最高、誰も文句を言えないでしょうね。そしてそれを期待するファンも多いかと思われます。

 フォワード陣も好調で、大外でパスをキャッチしトライを決めたリーチ選手、ディフェンス2人を振り払いながら縦に突破してトライを決めたラブスカフニ選手、モールトライを決め、さらにはジャッカルでピンチを救った姫野選手を始め、アタックとディフェンスのいずれも、皆が要所要所でいいプレーを見せてくれましたね。

 そもそも、スクラムが良かったですね。ファーストスクラムはマイボールでしたが安定、セカンドスクラムもマイボールで安定させただけでなく、球出しの直後は若干押してさえいました。サードスクラムは、自陣22メートルラインを越えられた地点でのサモアボールであったため、押してやろうという気負いがあったのか、まずアーリーエンゲージを取られ、組み直した後もコラプシングを取られました。それ以降はメンバーが入れ替わっても安定したスクラムを組み、反則も1つ奪われたものの、2つ奪うという素晴らしい出来を見せてくれました。あらためてフォワード陣の層の厚さを感じさせてくれます。

 スクラム以外も良かったですね。堀江選手がシンビンで一時退場した間、フォワードが1人少ないという数的不利な状況でモールトライを奪われたものの、逆に、サモアの11番ベン・ラム選手がシンビンで一時退場した間、きっちりモールトライを取り返しました。しかも、ラム選手はウイングで、フォワードは8人が揃っていましたから、8人対8人の状況でモールを押し切ったわけです。

しびれたシーン

 後半15分、松田選手がPGを決めた後の1分間の攻防、これにはしびれました。

 サモア10番リアリーファノ選手がリスタートキックで蹴り上げたボールを、4番ジャック・コーネルセン選手が高く跳び上がってキャッチ、そこで出来たラックから齋藤選手が球出し、自らパントで蹴り上げると、13番ディラン・ライリー選手がチェイス、落下地点に入り、ジャンプキャッチを試みますが、ボールが両手の間をかすめてノックオン。

 これが不思議なキャッチミスで、ライリー選手がキャッチする瞬間、サモア8番サ・ジョーダン・タウフア選手が背中を押したようにも見えました。気になったので、J sports の戦術カメラで確認してみると、ライリー選手の背中にタウファ選手の両手が伸びているように見えます。完全にレフリーの死角ですね。

 ただし、レフリーが笛を吹かなかったわけですからプレーは続行、こぼれ球を拾ったサモア7番フリッツ・リー選手から8番タウファ選手、13番トゥムア・マヌ選手、15番ダンカン・パイアアウア選手へと、日本側から見た右サイドにボールを展開、大外の23番ダニー・トアラ選手に回り、右サイドを走り抜けてきます。

 ライリー選手のミス(かどうかは不明な)プレーから迎えたピンチで、松島選手の登場です。トアラ選手が日本陣22メートルラインを越えそうになったところに、内側斜め後ろから追いついた松島選手は、低いタックルで倒したかと思えば、走ってきた勢いのまま、流れるようにディフェンスラインに立つ、という抜群の身体能力を見せてくれます。すると、そのラックからサモア9番ジョナサン・タウマテイネ選手が球出し、そのボールを受け取ったリー選手がヒットにきたところを、まずはディアンズ選手がタックル、そしてリーチ選手もタックル、リーチ選手が激しく絡み、ゲインを切らせるどころか、わずかではありますが押し戻します。このラックから、ふたたびタウマテイネ選手が出したボールを、パイアアウア選手が受け取り、ヒットにきますが、すでにディフェンスラインに戻っていたディアンズ選手がふたたびタックル、それを受けたパイアアウア選手がオフロードしようとしたボールを日本の18番ヴァル選手が奪い取ってターンオーバー、とりあえずピンチを切り抜けます。

 さらに、このラックから齋藤選手が球出し、レメキ選手が陣地回復のハイパント。そのボールはハーフウェイラインを越えたところ落ちますが、サモアのトアラ選手がクリーンキャッチ、そのまま前進、ヒットにきます。すると今度は11番ジョネ・ナイカブラ選手と12番中村亮土選手がダブルタックル、ナイカブラ選手が倒し、すかさず中村選手がジャッカルにいき、これが成功、松田選手のペナルティキックでサモア陣22メートルライン手前まで陣地を回復、ピンチを完全に脱出しました。

 この後のサモアの猛攻を考えると、ここで点数を奪われていたら、勝負の行方は分からなかったかもしれません。

サモア代表マヌ・サモア

未完のスタイル

 サモア代表は、初戦のチリ戦で、これまでの縦を突くアタックに、横の展開を加え、幅の広いアタックをしておりました。ただ、前回のアルゼンチン戦では、雨のせいもあってか、両チームともに横の展開でボールが繋がらず、それでもサモア陣に入り込むアルゼンチンに対し、サモアはアルゼンチン陣に深く入る機会をあまり作ることができませんでした。またリアリーファノ選手のショットも決して調子が良いわけではなく、日本戦でもそのままの戦い方をしてくれたらいいなと思っておりました。

 そんな願いどおりに前半は、たとえば日本陣ゴールライン間近のサモアボールスクラムからの攻撃で、シンプルに縦を突くのではなく、タウマテイネ選手からブラインドサイドへのトリッキーなパスでノックオンを招くなど、これまで同様ちぐはぐな戦い方をしてくれたため、日本代表を応援する側としては観ていて安心しておりました。

手負いの熊は恐ろしい

 30年近く前のこと、知り合いで鉄砲撃ちのおじいさんに聞いた話ですが、手負いの熊というのは本当に恐ろしいらしく、腹から内臓が飛び出てしまっていても向かってくるそうです。

 そんな話を思い出したのは、この試合を観たためです。サモアの選手を熊に例えるのは失礼とは思いますが。そう考えてみると、プールD初戦のイングランドが開始早々レッドカードで退場者を出し、ほぼ80分間を14人対15人という数的不利で戦ったにもかかわらずアルゼンチンを下したように、数的不利な状態に陥ることで開き直った相手が思い切った戦術に切り替えてくると、その方が怖いのかもしれませんね。

 後半10分、イエローカードでシンビンに入っていたサモア11番ベン・ラム選手の判定がレッドカードになっても、しばらくは同様の戦い方をしておりましたが、残り試合時間が20分近くになると、敵陣さほど深くないところからでも「オフロードやラックからの短いパスを受け取った選手が縦に当たる」という流れを繰り返しながら前進する、サモア本来の戦い方を始めます。その後、日本から2トライを奪い、1トライ1ゴールで逆転という点差にまで追い詰めると、しまいには自陣からも同様のアタックを繰り返し、ついには日本のペナルティを誘い、もう少しで逆転というところまで迫りました。

 最後の猛攻を、なんとかしのいだ日本代表ですが、ここまで攻められたのは、結局、タックルが厳格化、厳罰化された今、レッドカードを考慮に入れると、ダブルタックルに入りずらいということもあるのかもしれません。ただ、それこそ最後のディフェンスで誰もレッドカードをもらわなかったのは、日本代表の選手が規律を守っている証かもしれません。

 とはいえ、アルゼンチン代表に同じようなアタックをされると嫌だな、とは思いました。

最後に

兆し

 話が前後しますが、後半15分からのピンチを脱出した後、日本とサモアは一進一退の攻防を続けます。

 そして迎えた後半21分、サモアに攻め込まれ、日本側から見てコート中央よりやや右より、自陣10メートルラインを少し突破された地点でサモアにラックを作られます。ここからサモアの21番メラニー・マタバオ選手がラックから球出し、右サイドにボールを展開するもサインミスなのかボールがつながらず、転がったボールにライリー選手が滑り込みながらそのボールをすくい上げ、リーチ選手へ、そして松島選手に繋がりトライ。

 ところが、これがTMO判定に持ち込まれ、ライリー選手のノックオンが取られたため、トライは無効になりました。残念な判定ではありましたが、オフロードからトライまでの繋がりがようやく見え、日本代表は前回を超えるワンチームになりつつある、と感じました。これが見たかったファンは多いはずですよね。アルゼンチン戦でも見られるのではないでしょうか。

 ちなみに、この試合のMOM(マン・オブ・ザ・マッチ)に選ばれたのは、レメキ選手でした。これには納得ですが、日本代表の全選手がそれに値すると思いますし、特に、ヴァルアサエリ愛選手は、前述のターンオーバーに加え、終了間際のサモアボールラインアウトでファンブルしたボールをキャッチして前進、サモアの最後の攻撃を終わらせた立役者として、もう一人のMOMに選ばれてもおかしくないと思います。

 ということで、今日はこの辺りで〆ることとします。

 ではまた! ありがとうございました!

ふわりふらり

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