ラグビー観戦記 RWC2023 ウェールズ VS フィジー

ラグビー

 どーも、ふわりふらりでございます。

 観れば観るほど面白い試合で、これはちょっとばかり力を入れて書きたくなってしまいました。

ウェールズ代表レッドドラゴンズ 前半戦

伝統国ウェールズの魔法対策

 前大会でも同じプールで戦った両者ですが、前半のウェールズは、前回以上に手堅いラグビーをしているように見えました。ラグビーにおけるキックは相手にボールを渡す確率が高いため、カウンターアタックというリスクが生じます。ましてやフィジアンマジックの異名を取るフィジー代表ですから、そのリスクは極めて高くなるでしょう。この場合、ボールを蹴らずに回しながら保持する、いわゆる『ポゼッションラグビー』がひとつの対応策になりますが、ウェールズは前回同様「陣地回復のために蹴る時は蹴り、堅いディフェンスでリスクを回避する」という方針をとっていたようですが、今回はそれに加えて「あくまでもボールを回すのは敵陣、自陣からは蹴る」という方針もあったのでしょうか、自陣からボールを回して攻めるシーンが前回よりも少なく感じました。また、ペナルティはショットで3点を狙い、ゴールライン近くに蹴り出しマイボールラインアウトにした場合でも、まずはモールでトライを狙い、それで取り切れなければ横に展開してトライを狙う。ラインアタックも縦と横の塩梅がよく、ショートからロングまでパスもきれいに繋がっており、まさに、オーソダックスな、伝統国のラグビーを見せてくれます。

ウェールズのもうひとつの伝統

 そんなウェールズ代表ですが、ダン・ビガー選手がめちゃブチ切れるのも、ひとつの『伝統』になっているようです。自陣でボールを回すシーンが何度か見られたのですが、そのうち二度、ビガー選手がめちゃブチ切れておりました。

 たとえば、前半9分、自陣でボールが回ってきた13番ジョージ・ノース選手が縦を突き、タックルを受けてターンオーバーされた際、ビガー選手がノース選手にめちゃブチ切れるシーンが映りましたが、これはノース選手が蹴らなかったことに対する怒りだったのでしょうか。

 また、前半終了間際、フィジー代表にゴールライン付近まで攻め込まれ、40分を過ぎた時点で、7番ジャック・モーガン選手がターンオーバー、ボールを背後にいた15番リアム・ウィリアムズ選手にパス、ウィリアムズ選手がそのボールを蹴り出せば終わるところを、なぜか謎のパス。このあたりからビガー選手の『めちゃブチ切れメーター』が急上昇し始めた模様です。そんな『めちゃブチ切れメーター』にお構いなく、ボールは21番トモス・ウィリアムズ選手、12番ニック・トンプキンス選手と回り、タックルを受けたトンプキンス選手がオフロードしたボールが、13番ノース選手に繋がらずノックオン。ボールは無情にもコロコロと転がります。ここで『めちゃブチ切れメーター』が上限に達したようで、ビガー選手は、まさに火を吹きまくるレッドドラゴンのような形相で、そのマグマのような灼熱の怒りの矛先を、なぜかノース選手に突きつけます。これにはノース選手も「えっ? お、俺っすか?」と驚いたことでしょう。たしかに上述した前半9分のノース選手には蹴れる時間的余裕がありましたが、この場合はそもそもボールが手につかなかったわけですから、蹴りようがありません。あたかもボールを手に持っているかのように見せながら蹴るふりをする、いわゆる『エアーキック』でもしてみせる機転がノース選手にあれば、その馬鹿馬鹿しさにビガー選手も怒りを通り越し、笑ってしまう可能性も万にひとつはあったかもしれませんが、残りの99.99%は、余計火に油を注ぐ結果となり、ノース選手が大やけどをしたであろうことは火を見るよりも明らかであります。被害者のはずのノース選手は、普段からビガー選手の怒られ役なのか、それとも全然別の内容でめちゃブチ切れられているのか分かりませんが、なんだか気の毒でした。だって、ビガー選手、めちゃブチ切れてましたから。

ウェールズ代表レッドドラゴンズ 後半戦

絶妙な塩梅

 前半を18対14の4点リードで折り返したウェールズは、後半に入ると、陣地回復のロングキック以外にも、キックを多用していきます。前半に2トライを奪われましたが、それはキックからのカウンターアタックではなく、セットプレーからのものでした。そのため、フィジーのカウンターアタックはそれほど怖くないと判断したのかもしれません。また、前半終了間際の猛攻をしのぎ切ったことでディフェンスに問題はないと確信したのかもしれません。いずれにせよ、コンテストキックやデフェンスの裏を狙ったグラバーキックなどギャンブル的プレーを見せつつ、スムーズで確実な横展開でゴールライン前まで迫るなど、フィジー代表を次第に翻弄、後半8分、キックパスでトライを奪い、ビガー選手のコンバージョンキックも決まり、25対14とします。

 その後は何度かフィジーに攻め込まれるもののトライは与えず、ビガー選手の『50:22』でフィジー陣22メートルライン内に攻め返すと、マイボールラインアウトからモールで前進、それを止めようとしたフィジー代表7番レキマ・タンギタンギバル選手が反則(おそらくモールコラプシング)、後半24分、イエローカードで一時退場。ウェールズはペナルティキックでタッチに蹴り出し、マイボールラインアウトからモールでトライ。15人対14人という数的有利の好機を逃さない、じつに手堅い攻撃でした。ビガー選手もゴールを決め、後半26分の時点で、32対14、2トライ2ゴールに1PGを加えても追いつかれない点差になります。

潮目を変えたのは……

 ここまでの試合展開は、ぱっと見フィジー優勢という印象とは裏腹に、手堅い攻撃と華やかな攻撃を塩梅よく使い分けるウェールズに支配されていた感があります。ところが、コンバージョンキックを決めたビガー選手が交代、その直後、リスタートキックからの一連のプレーの中で、ウェールズ代表17番コーリー・ドマホフスキ選手がノーバインドタックル、というよりほぼ頭突きでイエローカードを切られ一時退場、14人対14人と数的にイーブンになると、試合の流れの潮目が変わります。ただし、その原因が「数的イーブンになったため」というのは少し違うのかなと。と言うのも、試合開始から、フィジーのタンギタンギバル選手がイエローカードで一時退場するまでの64分間は数的イーブンが続いていたわけですからね。潮目が変わった原因は他にあるのかもしれません。「ビガー選手がコンバージョンキックを決めた後にベンチに下がり、他の選手の緊張感が欠如したため」、「点差が安全圏に入り、安心してしまったため」、「80分という試合時間の中で、もっともきつい時間帯に入り、フィットネスが落ちたため」、「ビガー選手が今後めちゃブチ切れた時になんとか笑わせるボケはないかと皆が考え始めたため」などが考えられます。ビガー選手の交代については、後半に入り、彼が腰を押さえる様子が何度か映し出されていたのですが、なんらかのコンタクトで痛めたのか、怒り狂った際に腰にギクリときたのでしょう。しかしながら、その状態でも懸命にキックチャージにいく姿、勝利への執念には深く感じ入るものがあり、今大回を最後に国際レベルの試合から引退すると宣言した、その思いが伝わってくるようで、まじめな話、目頭が熱くなりました。

フィジー代表フライング・フィジアンズ 前半戦

アクセントとしてのフィジアンマジック

 伝統国ウェールズに対し、フィジー代表はラックを多用した攻撃に、時折りフィジアンマジック、つまり自由奔放なパスやオフロードを使って攻撃を仕掛けます。前回ワールドカップで両者が戦った試合のスタッツを某メディアで確認したところ、前回のフィジーのラック数が80であったのに対し、今回は134、じつに1.7倍近い数に達しております。この1.7倍がピンとこない方のために吉野家の牛丼で例えれば、並盛と超特盛以上の差があるのです。牛丼が相手であれば、牛丼好きにとっては望むところでしょうが、フィジー代表が相手であれば、『フィジー代表のような、もはや人間離れした大男たちが自分に向かって当たりにくる回数が1.7倍』ということになり、それに対して「望むところだ」などと言えるのは、相当なタフガイか、超特盛の能天気か、そのいずれかであります。まあ、ウェールズ代表がまさにそのタフガイなのですが。ともかく、今回のフィジー代表はラック超特盛攻撃に、時折りフィジアンマジックというアクセントを使って攻撃を仕掛けます。

2つのトライ

 フィジー代表が前半に奪ったトライの経緯を要約すれば、以下のとおりです。

【前半12分】
 起点はウェールズ陣10メートルラインを少し越えたところからのマイボールラインアウト。そこからボールを回し縦を突いてラック形成、二次攻撃でも縦を突いてラック形成、三次攻撃で横に展開、途中でパスが乱れるも、それが功を奏して13番ワイセア・ナヤザレブ選手がラインブレイク、そのままトライ。

【前半16分】
 起点は自陣10メートルラインを少し越えたところからのマイボールスクラム。9番フランク・ロマニ選手から10番テティ・テラ選手にパス、さらに12番セミ・ラドラドラ選手を飛ばして13番ワイセア・ナヤザレブ選手にパス、ナヤザレブ選手が縦を突き、12番ラドラドラ選手に折り返しオフロード、ラドラドラ選手がラインブレイクした後、7番レキマ・タンギタンギバル選手にオフロード、タンギタンギバル選手がトライ。

 最初のトライは、ラックを使った『縦縦横』という古典的ながら定番の攻撃パターン、それに対し、2本目のトライは、まさにフィジアンマジック炸裂といったところで、ウェールズ代表と同じように、手堅い攻撃と華やかな攻撃を塩梅よく使い分けておりました。

 ところが、2本目のトライを奪ってからは、攻めても結局はトライに結びつかない、はがゆい試合展開となります。まるで思い切って告白した相手に「好きだよ。友達として」とすかされた少年のような、せつない片思い的状況が続き、そのまま前半を終えることになります。

フィジー代表フライング・フィジアンズ 後半戦

遅れて効いてきた魔法

 後半に入ってからも攻めあぐね、後半26分にウェールズが4本目のトライを奪うまでの間は、フィジー代表にとって、まるで開き直って幾度となく告白した相手に「うーん、友達以上恋人未満って感じかな……今のところはね」と昭和的すかしを食らい続けるような、蛇の生殺し的試合展開が続きます。ところが、上述の『潮目』を境に状況が一転、フィジアンマジックがようやく効いてきたのか、それともウェールズ代表ダン・ビガー選手が人知れずかけた魔法が解けたのか、残り時間10分近くになってようやく、フィジー代表の怒涛の反撃が始まります。

【後半31分~ トライへ】
 ウェールズ陣ゴールラインまで6~7メートル、ゴールポストを左斜め前に見た地点でウェールズが反則、マイボールスクラムを選択。そこからまずは右に振ってラック形成、二次攻撃で左に折り返しラック形成、三次、四次で右、左と繰り返し、五次、六次で左、左と振りラインブレイク、そのままトライ。コンバージョンも成功し、21対32と一歩詰め寄ります。

【後半33分~ 試合再開】
 ウェールズのリスタートキックで自陣に攻め込まれますが、じわじわ陣地を回復、シンビンに入っていたタギタギバル選手が戻り、15人対14人という数的有利な状況になると、縦攻撃、横展開、得意のオフロードを織り交ぜて、再びウェールズ陣ゴールライン前まで迫ります。

【後半37分~ トライへ】
 起点は、ほぼ同じ、若干右サイドよりの地点、ウェールズの反則で得たペナルティキック。時間がないためスクラムは選ばず、タッチに蹴り出すこともせず、タップキックから縦を突き、ラック形成。二次でラック右サイドを突き、ふたたびラック形成、三次で今度は左サイドを突いてラインブレイク、トライ。コンバージョンは外し、32対26、1トライ1ゴールで逆転の点差にまで追い上げます。

【後半38分~ 試合再開】
 ウェールズ側もシンビンに入っていたドマホフスキ選手が戻り、15人対15人のイーブンな状況で試合が再開されます。ウェールズのリスタートキックで自陣深くまで攻め込まれますが、ラックを2つ挟んで21番シミオネ・クルボリ選手がイングランド陣内に蹴り返し、それをキャッチしたウェールズ代表15番リアム・ウィリアムズ選手がさらに蹴り返すとボールは直接タッチラインを割るミスキック、いわゆる『ダイレクトタッチ』になります。画面には、数分前にベンチに戻り、タオルで髪の毛の汗を拭きながら観戦していたウェールズ代表ビガー選手が、心配そうな顔で頭を抱えるシーンが映し出されます。

【後半39分~ ノーサイドへ】
 右サイド、ウェールズ陣10メートルライン付近からのフィジーボールラインアウトが起点。そこから縦を突いてのラック形成を左サイドに向かって順目、順目と繰り返し、ラックが左サイドに到達すると、今度は右サイドに向かって順目でラック攻撃を繰り返す、その流れで2往復半、(おそらく)13フェイズ目に左サイド大外にロングパスを放り、キャッチできればトライという状況になるも、ノックオンでノーサイド。

惜しまれるのは……

 ウェールズを相手におよそ10分間で3連続トライ、そして劇的逆転という偉業達成まであと一歩と詰め寄った、まさに怒涛の反撃でした。
 少しばかり細かく見てみます。連続ラック攻撃を左右に2往復、さらに右サイドから左サイドに向かい始めると、フィジーのフォワード陣が、ウェールズのディフェンスを引きつけるためラック周辺に寄り、左サイドに大きなスペースを作り出しました。
 21番シミオネ・クルボリ選手がラックからボールを出し、左サイドに向かって作ったアタックラインの先頭である22番ジョシュア・テュイソバ選手にパス。テュイソバ選手がそのボールをキャッチした時点でテュイソバ選手の左には、13番ワイセア・ナヤザレブ選手、23番シレリ・マンガラ選手、12番セミ・ラドラドラ選手の3人が並んでいるのに対し、ウェールズのディフェンスは2人、つまり3対2の数的有利な状態になっております。
 こうなると、2020東京オリンピックのセブンズ金メダリストであるフィジー代表、フィジアンマジックのお出まし……かと思われたのですが、勝ち急いだのでしょうか。テュイソバ選手は飛ばしパス、そのボールはナヤザレブ選手とマンガラ選手の前を飛んでいき、大外のセミ・ラドラドラ選手の手前に落ちてワンバウンド、ラドラドラ選手がファンブルし、ノックオン。非常に惜しい結果となりました。いくらフライング・フィジアンズとは言え、そのパスは飛ばし過ぎじゃないかい、といったところですが、やっぱりフィジーのラグビーは面白いですね。

試合を通して思うこと

やっぱり驚きたいのです

 最後の約10分を除いたとしても、試合全体をさらっと見て受ける印象は「フィジーが優勢」というものでした。放送中に表示されたスタッツによれば、「ボールを持った(運んだ)回数」と「ボールを持って走った距離」はフィジーがウェールズの2倍以上、逆にタックル数はウェールズが244回でフィジーのじつに3倍以上という数字が出ています。この数字だけを見れば「フィジーがフィールドを縦横無尽に走り回り、ウェールズを一方的に攻め、対するウェールズは防戦のみ」と考えるのが妥当と思われます。
 ところが実際に勝ったのはウェールズです。結局この試合は、少なくとも後半30分くらいまでは、ウェールズが劣勢に見えながらも、そのキックとディフェンスに支配された試合だったのでしょうね。試合をデザインし、それを形にしたということでしょう。244回のタックルの内、ミスタックルは33回、ほぼ87%の確率でタックルを成功させている点もまた見逃せません。ウェールズ代表のような伝統国のラグビーは、理にかなっており、もはや完成されたひとつの形として素晴らしいのは確かですね。
 けれども、個人的にはニュージーランド代表やフィジー代表のようなラグビーの方が好きです。「そんなことする?」と驚かされ、「次はなにやってくれるの?」とワクワクさせてくれるような試合を観たいじゃないですか。人は皆、驚きたいのです。フィジーは今後ますます強くなって、ラグビーファンを驚かせ続けてくれる、そうに違いありません。

気になったシーン・選手

 後半8分のウェールズのトライシーンは気になりましたね。といっても、トライそのものではなく、そこまでの経緯です。ウェールズから見て左サイド、フィジー陣ゴールラインの手前まで迫り、ラックを作ります。当然、その右斜め後ろにはアタックラインができるのですが、ラックからボールを出した9番ガレス・デーヴィス選手は飛ばしパス、そのボールは10番ダン・ビガー選手の目の前を通り過ぎて、ラインに参加していた7番ジャック・モーガン選手の手に収まり、モーガン選手がフォワードとは思えない正確なキックで大外にパス。それがトライに繋がるわけですが、モーガン選手のキックパスもさることながら、ビガー選手が自分が飛ばされたのを知ったとき、両手を上げる仕草をするんです。これってなんなんでしょ。チーム内が上手くいってないんでしょうか。見ていて切なくなりますね。有終の美を飾って欲しいなと。
 まあ、それはさておき、後半18分にも、モーガン選手はキックを披露してくれています。プレーが途切れた後とはいえ、チップキックしたボールの落下点に入り、片手で難なくキャッチしているのを見たときは「人は見かけによらない」というのは、まさにこのことだと感心しました。普通にアタックラインに入ってパスを回したりしてますし、すごく器用な選手ですね。今後は注目しようと思います。
 フィジーは能力が高い選手が多すぎて、逆に誰も目立たない感じですね。とはいえ、やはりラドラドラ選手はセンターに入っても、ウイングに入っても、高いランスキルを見せてくれますし、ナヤザレブ選手や途中出場になったテュイソバ選手も目立っております。個人的には、レバニ・ボティア選手が走っているときの迫力が好きなんですが。

 さて、だいぶ長くなりましたので、この辺りで〆ることとします。

 ではまた! ありがとうございました!

ふわりふらり

コメント

タイトルとURLをコピーしました